地球の鼓動に耳をすませば
-東海大学新聞連載コラムー

(47)八重山諸島・仲ノ神島海鳥集団繁殖地を見つめて

河野裕美
東海大学沖縄地域研究
センター主任研究員

西表島の南西約15キロに仲ノ神島海鳥集団繁殖地があります。断崖に囲まれた無人島で、6種、数万羽の海鳥が繁殖のために南方海域から渡来します。かつて、波照間島や西表島の人々は、5月上旬頃にサバニを漕いで海を渡り、高密度で大規模な繁殖集団を形成するセグロアジサシの卵を採る習慣がありました。櫂を漕いでの渡島は安易な採集行ではなかったと想像されます。しかし、それは動力船の時代まで続き、さらに外国漁船による大規模な卵採取が1980年まで頻繁に行われていました。海鳥たちは継続的な撹乱を避けて、熱帯低気圧等の風浪の影響を受け易い稜線や海岸の各所に散らばって小さな副集団営巣地を形成しましたが、そこでは雛がほとんど巣立たない状況でした。
 私は、1976年5月にセンターが開設されて以来、仲ノ神島の海鳥の生態研究と保全に取り組むようになりました。地方行政や地元の理解と協力も得られて、卵採取は1980年を最後に行われなくなり、個体数も緩やかに増えはじめました。また、どのように個体群が維持されているのか、を理解するための生態的な要因も明らかになってきました。しかし、ただ見守ることしかできなかったのがセグロアジサシの営巣地選択でした。撹乱の原因を取り除いても簡単には元の営巣地に戻らず、2003年、ようやく副集団営巣地が姿を消し、島の中央部の広い草地でのみ主集団営巣地を形成して繁殖するようになったのです。「集団の記憶」があるのでしょうか? 彼らも、じっと耳を澄ませているのかもしれません。 

仲ノ神島のセグロアジサシ集団繁殖地(2005712日)

 
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東海大学新聞掲載日 2005年7月20
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Update: 2005.7.20  E-mail: