地球の鼓動に耳をすませば
-東海大学新聞連載コラムー

(39)電波で海を測る  ‐短波海洋レーダ‐

藤井智史
情報通信研究機構
沖縄亜熱帯計測技術センタ ー長

 気候変化との関係や水産業や海運の現場として、海の挙動を知ることは重要です。特に、沿岸環境は生活圏に直接的な影響を与えることから詳しい情報が必要です。
 いま、この沿岸の流れや波浪を詳細かつ連続的に計測する道具として「短波海洋レーダ」が注目されています。レーダとしては一般的なマイクロ波などの高い周波数ではなく、短波帯の電波を使っています。この周波数が使われるのは、対象とする海の波での散乱がブラッグ共鳴する波長だからです。短波帯を使うおかげで、マイクロ波のように直達波で視界に入る範囲だけでなく、海岸から地表面に沿って伝搬して、水平線を越えて情報を得ることができます。
 この短波海洋レーダを使うことにより、東京湾などの狭い領域での流れの様子、黒潮や親潮から沿岸に流れ込む水隗の挙動などを一時間ごとに知ることが可能になります。これは、船舶や人工衛星の観測を基にした従来の海洋情報が一週間や数日単位でしか得られないのとは比較になりません。
 このような頻度の高い観測から得られる表層流データは、油汚染や漂流物、サンゴなどの幼生の追跡や漂流予測制度を向上させることができ、海上での波の高さや周期の情報は、船舶航行や漁船操業に非常に有効です。
 まだ、学術研究への利用が主な用途になっていますが、今後、全国の海岸に設置され、気象レーダと同じように、海況を居ながらにしてリアルタイムに知ることができる日も近いかもしれません。

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東海大学新聞掲載日 2004年1120
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Update: 2004.12.1  E-mail: kcho@keyaki.cc.u-tokai.ac.jp