地球の鼓動に耳をすませば
-東海大学新聞連載コラムー

(27)南極オゾンホール生成のメカニズム

竹下 秀 
東海大学
総合科学技術研究所講師

 気象庁は十月九日に「今年のオゾンホール、九月下旬に過去最大級に発達」と発表しました。昨年の本誌十月二十日号ではオゾンホールが縮小したと紹介しましたが、今年は昨年と比べると破壊が進んだというのですこの不可解な現象を説明するために、オゾンホールの生成メカニズムについて考えてみましょう。
 オゾンホール生成に必要不可欠なものの一つはフロンです。フロンの光解離によって生成された塩素原子によってオゾンは破壊されます。
 しかし、オゾンホールは南極の春に南極大陸上空で発生し、夏に消滅します。オゾン破壊は高度三十キロ以下の下部成層圏で顕著ですが、この高度では光解離した塩素原子の大部分はオゾンを破壊しない塩化水素や硝酸塩素分子の形で存在しています。さらに前に述べたオゾン破壊反応の進行には酸素原子が必要ですが、この高度では酸素原子濃度は低いのです。つまり、フロンだけがオゾン破壊の原因とは考えられないのです。
 ここで重要なのが、極成層圏雲の存在です。冬の南極域には極渦と呼ばれる強い西風が発生し、この極渦によって中緯度帯の暖かい大気との大気交換が阻害されます。また、冬の南極域は太陽の光が当たらないため成層圏は低温になります。極低温状態にまでなると大気中の水蒸気などが凝結し、下部成層圏に極成層圏雲が発生するのです。この極成層圏雲の表面では化学反応が起こり、塩化水素と硝酸塩素から安定な塩素分子が生成されます。春になって太陽光が当たると一斉に塩素分子は塩素原子に変わり、この塩素原子と臭素によって大規模なオゾン破壊が南極上空で爆発的に起こります。オゾンホールの規模は、冬に蓄えられるオゾン破壊物質の量に左右されるのです。
 これが、最も有力なオゾンホール生成メカニズムです。しかし、オゾンホール生成消滅メカニズムにはいまだに未解明部分があります。生成消滅メカニズムの探求と共に、長期的にオゾンと太陽紫外線の変動を監視していくことが重要なのです。

 

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東海大学新聞掲載日 20031020
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Update: 2003.10.20  E-mail: kcho@keyaki.cc.u-tokai.ac.jp