− 宇宙考古学 −
衛星データによる古代エジプトの遺跡発見について

ダハシュール北地区遺跡



古環境研究の一環として、人工衛星の画像解析によって古代エジプトの未発見のピラミッドや遺跡を探査する調査研究を続けている東海大学情報技術センター(所長・教授・坂田俊文)と早稲田大学古代エジプト調査室(主任・教授・吉村作治)の合同プロジェクトチームは、ギザから約20キロ南のダハシュールの砂漠の中から大規模な日乾煉瓦遺構を発見した。

東海大学情報技術センターは、1994年から早稲田大学古代エジプト調査室と共同で「衛星による未知のピラミッド探査」に関する研究を行っている。砂の下に埋もれているピラミッドを衛星データ解析によって探し出すというこの壮大な研究プロジェクトは、従来の考古学的調査のように勘や経験に頼った手法ではなく、衛星データによって未発見のピラミッドを探し出し、それによって得られる新たな歴史的資料や考古学的検証によって、その建造目的など数ある課題の解明を目的としている。本研究の予備調査および第一次探査において、これまでに報告されていない幾つかの遺跡を発見した。そして1996年4月、ギザの南約20qのダハシュール(Dahshur)北地区において、衛星画像解析によって特定した調査地点のひとつから広大な墓域が発見された。発掘の結果,砂漠に埋もれた大型日乾煉瓦遺構が出土し,調査の結果、同遺構はエジプト新王国時代後期(紀元前1400年〜1300年頃)に属する最大級の規模を有するトゥーム・チャペル(Tomb Chapel:ピラミッドの付いた神殿型貴族墓)であることがわかった。これまでの発掘調査によって,この遺構からは東西約47メートル、南北約l7メートルの日乾煉瓦造による壁体基礎部、約13mにおよぶ石灰岩の石組みによるシャフト、それに続く地下諸室(1998年3月の第3次発掘調査において石棺の存在を確認)、ツタンカーメン王の時代の指輪、彩色レリーフ片や小神像を含む多数の遺物、そして周辺からは一辺約59p、高さ約41pの石灰岩製のキャップストーン(ピラミッドの頂部)や胸飾りなども出土している。現在、既に発見されている15基におよぶ周辺のシャフト墓や多数の遺物散乱と併せ、この遺跡全体の考古学的検証と建築学的構造理解などの作業が進められており、同時に日乾煉瓦遺構から発見された煉瓦スタンプなどからの被葬者の特定作業も進行中である。

衛星データを利用した本格的な遺跡探査でエジプト王朝時代の大型遺構が発見され、考古学的検証によってそれが確認されたのは本例が学史上初めてである。また、ダハシュールでは新王国時代の遺構の報告例が皆無であり、今後の調査の進展が期待される。


ダハシュール地図 TM画像
調査対象地域とダハシュール北地区遺跡周辺の衛星画像 Copyright(C)TRIC

日乾煉瓦遺構
衛星画像解析によって発見されたダハシュール北地区遺跡の日乾煉瓦遺構

シャフトA ピラミディオン
日乾煉瓦遺構中央のシャフトおよび遺跡内で発見されたピラミディオン


関連記事:石棺のある地下室を発見


Updated on June 8, 1998