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衛星によるナイルデルタの古代エジプト遺跡Site No.52の発見について
砂漠地帯に分布するピラミッドなどの王朝時代遺跡に対して、ナイルデルタの平坦な低湿地には、ナイル川の氾濫が及ばないマウンド(ヘブライ語でテル、アラビア語でコーム)上に、神殿を中心とした煉瓦遺構、土器片、墳墓群、草地などで構成されるヘレニズム時代の遺跡(以下、テル状遺跡という)が多数存在します。当センターでは、ナイル西方デルタのイドゥク湖を中心とする低湿地をテストサイトとして、そうしたデルタの遺跡群の検出に多衛星データを複合的に活用する新たな調査手法を確立し、それによってデルタ一帯の古環境復元へ寄与することを目的とする研究を行ってきました(図1)。
遺跡有望地点の選定には、だいち(ALOS)衛星のPALSAR(HH/HV偏波)及びLandsat衛星のETM+データを使用し(図2,3)、テル状遺跡と似た特徴量を示している地点を最尤法で分類・抽出した結果、遺跡の有望地点はイドゥク湖南岸の丘陵地跡に概ね集中していることが明らかになりました。
そうした遺跡の有望地点を中心に、CORONA及びWorldView-2画像の比較判読で未知遺跡の同定を試みた結果、キドワ・バーブ・アル=カザル(Kidwa Bab al-Ghazal)地区の果樹園内において、末期王朝時代からグレコ・ローマ時代の遺構と推定される方形状外郭の地表痕跡をもつ小丘Site No.52の存在が確認されました(図4)。
さらにグランドトゥルースなどを実施し、この方形外郭は幅約11m、奥行き18m、長軸は北東-南西方向を指向しており、海抜約6mで、ナイル川氾濫の影響を受けにくい地形であることもわかりました。
Site No.52地点の遺跡の存在に関しては、エジプト政府考古部門(SCA)の遺跡登録台帳等にも記載がなく、ナイルデルタを対象に、未報告のテル状遺跡の存在を衛星データによって発見したのは本例がエジプト学史上初めてとなります。
ナイルデルタには前6千年紀頃の海進に由来する潟湖が分布しており、強い塩基性土壌のために灌漑システムの整備が遅れて来たことが知られています。その不毛の地に多くのヘレニズム時代遺跡が分布していることは、ファラオ時代の後に地中海沿岸と古都メンフィスをつなぐ重要な戦略拠点がその一帯に存在していたことを示唆しています。Site No.52の発見は遺跡探査における衛星データの有効性を実証するだけではなく、これまで注目されてこなかったナイルデルタの遺跡分布の実態解明に向けた衛星データの新たな応用分野開拓に寄与するものと期待されます。
図1.対象地域
図2.対象地域のALOS/PALSAR画像
(©JAXA/METI/RESTEC)
図3.対象地域のlandsat7/ETM+画像
図4.Site No.52地点の丘陵上部で発見された方形状の遺構痕跡