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衛星データで探る中国古代陵墓 秦始皇帝陵の立地環境調査

図1.始皇帝陵(墳丘)
情報技術センターでは、学習院大学と合同で衛星データを用いた秦始皇帝陵の立地環境研究を行っています。秦始皇帝陵は、現在の西安市の東北東約30kmの驪山北麓に位置し、巨大な墳丘(図1)と墳丘を囲む内外城を中心として、周囲に陪臣墓、陪葬抗、陵邑などが配置されています。この研究では、驪山北麓の緩斜面に建造された始皇帝陵とその周辺地域に分布する関連遺構群を陵園という複合施設としてとらえ、遺跡の分布と立地条件を衛星データの画像解析を通して理解することで、驪山や渭水を含めた始皇帝陵園の古環境復元や建造プランの解明を目的としています。
これまでに、QuickBird、Landsat、SRTM/DEM、ASTER G-DEMなどの衛星データから超高精細4K 3次元映像(動画)を作成し、陵園一帯の画像解析と現地調査を行った結果、陵園の中心的存在と考えられる墳丘(頂部)を通る南北方向の中軸線は僅かに東偏し、南方約3km地点に位置する驪山北面の村落「鄭家庄」に隣接する一峰(Z地点:海抜1,059m)を指向していることが分かりました(図2、図3)。そしてそれらの位置関係を検討した結果、始皇帝陵の墳丘建造場所選定におけるランドマークとしてZ地点が使われた可能性があることもわかりました。

図2.内城からみたZ地点

図3.Z地点と始皇帝陵との位置関係
SRTM DEM等高線抽出画像 ©TRIC/NASA
さらに、CORONA(1965年撮影)の衛星画像の判読では、墳丘の北側にZ地点を基準とする南北中軸線に直交するほぼ東西方向の段丘状の直線構造がかつては複数存在していたことも分かりました(図4)。この直線構造は、断続的であるものの東西約4km、南北約2kmの広範囲に分布しており、残存する箇所の現地調査では、人工的とみられる約2~3mの段差のある階段状の地形が多く観察されています。
以上のことから、始皇帝陵の陵園建造過程において、まず驪山北麓から渭水にいたる斜面に埋葬地が選定され、そこに、Z地点を基準とした南北中軸線とそれに直交する東西軸線によって構成される大規模なグリッドプランが作成され、それらに基づいて整地された階段状の土地に、墳丘、内外城、兵馬俑坑をはじめとする建造物を配置した可能性が推察されます(図5)。

図4.CORONA画像から判読された南北中軸線と直交する直線構造 ©USGS/TRIC

図5.CORONA画像などから想定される
陵園建造当時の南北中軸線上の地形断面
SRTM/DEM・ALOS/DSMデータを元に作成(高さは約10倍強調)©TRIC/NASA/JAXA/PASCO